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ニュース 実施報告 POST:2024.02.06第3回TUPRePクロストーク「パンデミック条約と国際保健規則の改正:交渉の現状と論点」が開催されました。

2024年1月11日(木)、東北大学の新たな研究プログラム「SOKAP -Connect」(=Sustainability Open Knowledge-Action Program by Connecting Multistakeholder)の「パンデミックの社会課題解決に向けた学際研究」(TUPReP)におけるイベント「TUPRePクロストーク」の第3回が開催されました。国際法政策センターは本イベントの共催者です。

TUPRePでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による日本の死亡率が欧米より低かった理由を学際的に検討し、次のパンデミックに備える日本発のグローバルな提言をまとめています。TUPRePクロストークは、そのような取り組みの一環として、研究者や学生による意見交換を目的としたものです。クロストークの第1回は「人文学的視点からみたCOVID-19パンデミック―なぜ日本人の死亡率が低いのか―」をテーマに日本学・宗教学の視点から(2023年9月28日(木)開催)、また第2回は「COVID-19パンデミックと社会格差」をテーマに健康地理学・公衆衛生学の視点から(2023年11月29日(水)開催)それぞれ開催されています。

第3回となる今回は、「パンデミック条約と国際保健規則の改正:交渉の現状と論点」をテーマに、国際法学の視点からパンデミックに関する国際ルールの検討を行いました。COVID-19の世界的流行を受けて、世界保健機関(WHO)ではパンデミックへの対応に関する新たな法的文書(いわゆる「パンデミック条約」)の作成と国際保健規則(IHR)の改正に関する交渉が行われています。国際法政策センター長の植木俊哉理事・副学長と副センター長の西本健太郎教授(法学研究科)が、交渉の現状について報告および討議を行いました。

まず、西本副センター長から、主にパンデミック条約の交渉の経緯や現在の議論状況の概要が紹介されました。そのうえで、現在の議論がワクチン・医薬品等の製造・供給の物的側面に偏って進んでいるように見えることや、それに関する問題点が説明されました。特に、パンデミックに関連する製品の開発・生産能力が国際社会において衡平に存在することが目指されているが、これが必ずしも現実的ではないことや、パンデミック条約のもとで新たに構築することが議論されている病原体情報の共有のための新たな国際枠組みである「病原体アクセス・利益配分システム(PABS=WHO Pathogen access and benefit-sharing system)」がワクチン・医薬品等の開発インセンティブを考慮したものであるのかについて疑問があることなどが指摘されました。また、PABSのような新制度以外の部分ではごく弱い義務付けにとどまっていることや、人権侵害の防止や脆弱な立場にある人の保護など、パンデミックにおいて生じる問題については具体的な規定がほとんどないことが指摘されました。

続いて、植木センター長からは、国際社会におけるルールづくりと、国内社会でのルールづくりの違いを踏まえたコメントがなされました。国内社会では、国家の立法機関が定めた法は否応無しに国民を規律する一方、国際社会では国家は自らが合意した法にのみ拘束される、という決定的な差があります。言い換えれば、国家は新たに作られようとしているルールが受け入れ難い内容である場合、わざわざ合意して従わなくても良いことを意味します。(国際法における「合意は拘束する」、「合意なければ拘束なし」原則)。今日、国際社会における多くのルール作りでは、先進国と途上国との間で立場が根本的に異なる問題(例えば、気候変動や海洋における生物多様性の保護)が扱われており、パンデミック条約でも、特に感染拡大の防止措置の在り方をめぐって、先進国と途上国との間の対立が生じていることが指摘されました。パンデミック条約でも、社会的・経済的な背景を異にする多数の国家にとって「受け入れ可能な範囲」をめぐって激しい議論が繰り広げられていること、そして、この観点からは、過度に理想主義的な、あるいは特定の国家に極端な負担を課すような内容の条約が成立したとしても、その条約は国家の参加を得られずに、実効性を欠くことになることが説明されました。

イベント参加者とのディスカッションの場面では、TUPRePのプロジェクトリーダーを務める東北大学医学研究科の押谷仁教授から、パンデミック条約の交渉ではパンデミックの発生を防止するという視点への注目が弱いことが問題点として指摘されました。また、COVID-19とは根本的に異なる性質の感染症の世界的流行への対応の脆弱性が指摘されました。そのほかにも、異なる専門分野の参加者の間で、熱心に意見が交わされました。

イベント内容の詳細は、後日TUPRePのWebサイトに掲載予定です。